本音で語る労働審判~労働者と使用者、それぞれの立場から見たら?

~労働紛争解決に画期的な新制度がスタート~

【始めに】

平成18年4月からスタートした労働審判制度!これまでも不当解雇等、労働者と使用者の紛争を解決するための法手続きとしては、訴訟以外に、簡易裁判所の調停や県の労働局・労働委員会によるあっせんなどがありますが、この新しい制度は、労働者・使用者それぞれの立場から改めて注目する必要があるようです。労働者側弁護士にとっては「待望の新制度」ということですが、使用者側の弁護士としては、「新たに取り組むべき課題」ができたということになるでしょう。

労働者の立場からは、基本的に労働者に有利な制度であり、有効で効率的な救済手段として評価できますし、使用者の立場に立った場合は、労働者がこの手続を利用することが増えてくるのを認識したうえで、改めて労使問題に取り組む必要が出てくると思います。開始以来4年間に全国の地裁で8674件申立があり、年々増加しているようですから、経営者としてある程度の予備知識を持っていた方がよいでしょう。

【制度の特徴】

まず、労働審判制度という手続の特徴を簡単に説明しましょう。

特徴その1~手続主体

地方裁判所で行われ、労働審判官(裁判官です)が主導的に審理を進めます。
労働審判官の他、労働問題に関する専門的な知識経験を有する審判員2名で組織される労働審判委員会が手続の主体ですが、裁判官が圧倒的にリーダーシップを振るいます(審判員は法律の素人ですから当然ですね)。
「裁判官が主導する手続」であることは、色んな面で影響する大きな特徴です。

特徴その2~審理期間

原則として3回以内の期日で審理を終結する非常に迅速な手続きです。平成21年では、8割近くが2回目で解決しているそうです。また、解決までの平均的な期間は2ヶ月半程度ということで、とにかく裁判に比べると非常に迅速な手続と言えます。この迅速さは後で指摘する実効性と相俟って非常に重要なポイントです。

特徴その3~審理の進め方

法廷でない普通の部屋で、裁判官及び審判員と当事者つまり、申立人、使用者(代表者、人事 担当者等)が同席し、主に裁判官が当事者に質問していく形で審理が進められます(これを「審尋」といいます)。1回目の審尋で裁判官はその事案の印象(どちらの言い分が正しいのか)を固めて、遅くとも2回目には調停案を示します。ここで双方が調停案に同意しない場合には3回目の期日に審判がなされます(ほとんどの場合、審判の内容は調停案と同じです。拒否しても結局通らないわけですから8割近くがここで解決するのは無理もない話ですね)。

特徴その4~裁判への移行

審判に不満のある場合は、2週間以内に異議申立をすることによって自動的に通常の訴訟に移行します。制度開始後の総計では、6割強が審判に異議を出して訴訟に移行しています。でも、訴訟にまで進むのは申立事件全体ではほんの一部ということになります。大変迅速な手続ですが、裁判手続でじっくり争う途が用意されている点も特徴です。

特徴その5~実効性ある手段

他の手続と違って審判という司法的判定が下される点で強制力があり、従ってその前段階の調停も重大な影響力を持ち、実効性がある点が特徴的です。

【率直な感想】

このような特徴をもつ労働審判制度を実際に代理人として経験した印象をここで少し述べます(私が担当したのはいずれも不当解雇を争った事案です)。

まず、言えることは、この制度は労働者に非常に有利だということです。ほとんど1回目の期日で決着が着いてしまうことから分かるように、決して丁寧な審理とは言えません。1回目の期日に費やされる1ないし3時間の間に解雇の正当理由を裁判官に印象づけることは非常に難しいのです。私は、使用者側で解雇の正当理由を詳細に記載して資料も添付した書面(かなりの大作でした)を提出しましたが、裁判官は「それはそれとして」という感じで、和解を考えるよう非常に熱心に(強硬に?)勧めました。結局、依頼者はコスト計算をした結果だと思いますが、2回目の期日に裁判官の調停案を受け入れて終了しました。この事案は、通常訴訟に移行すれば使用者が勝訴できる可能性は決して少なくなかったと思います。結局、前に述べた労働審判の特徴は、ほとんど全て労働者側に有利に働くと言っても過言ではないと感じます。不当解雇をめぐる事例について言うと、要するに、どんな理由があれ(一見して解雇が当然の例外的な事案は別として)、使用者が解雇された労働者に一定額の解決金を支払うことで紛争の解決が図られる手続だと言っていいのかもしれません。私も何が何でも真相を明らかして白黒つけることが全てだとは思ってませんから、これはこれで有効な手続であり、大切な役割を果たしていると思います。

最後に、当事者それぞれの立場に立って労働審判制度を考えてみたいと思います。

【労働者の立場から見たら】

不当解雇を争う事案で考えると、申立をするのは解雇された労働者ですから、使用者の方から訴訟をすることはあり得ませんから、使用者側は選択の余地なく労働審判を受け止めるしかありません。相手方となった使用者に残された途は、裁判官が勧める調停案を受け入れるか、これを拒否して通常訴訟に移行させるかのいずれかしかないことになります。

裁判官が中立の立場で真相を解明していく手続である裁判と異なり、基本的に労働者の立場で調停を進めてくれる労働審判の方が労働者にとって有利なのはあまりに明白です。

この手続は短期決戦であるため、最初に提出する申立書や資料の選択・整理が非常に重要で、労働者本人が申立てをすることは勧められません。弁護士に依頼するべきでしょう(東京地裁も全件に弁護士がつくことを希望しているようです)。それでも上記のような特徴から本人の負担も軽く、訴訟に比べて依頼しやすいことは間違いないと思います。これまで経済的弱者であるがうえに訴訟を起こすことに躊躇して泣き寝入りしてきた労働者は数知れないと思いますが、この制度を積極的に活用することをお勧めします。

ただ、労働審判は、労働者の保護を趣旨とする労働法に根ざす制度ですから、あくまでも弱者である労働者の利益を保護することを目的としています。従って、例えば、お客さんから受け取った代金を着服したため解雇された従業員がこの手続を利用して報復するなどの濫用はあってはならないことは当然です。

【使用者の立場から見たら】

労働審判制度自体が使用者に不利な手続であることはもはや否定することはできないでしょう。しかし、考えようによっては必ずしもマイナスとは限りません。この制度ができたおかげで使用者にとっても手っ取り早い解決ができるという面もあります。従来の地位確認訴訟でもほとんどが和解で使用者が解決金を支払って終了していたと思われますから。

ただ、従来よりも労働者にとって敷居が低くなったわけですから(当然、不当解雇を争う事案は増加します)、使用者が不当解雇を問われるリスクは増えるこは間違いありません。使用者側からすると、労働法に照らした結論がどうであれ、企業の維持と発展という見地から等の従業員を解雇せざるを得ない場合があると思います。最終的な結論は事案によりますから決めつけることはできませんが、使用者側が数ヶ月分の給料総額程度の解決金を支払って解決することが多いと思われます。従って、訴訟に移行して判決に至るまでの様々なコスト(経済的・労力的・精神的)を考慮した経営的判断によって労働審判で早期に解決することも有意義だと言えます。

いずれにせよ使用者側には、経営者としての合理的、理性的な判断が求められることになりますから、労働審判についてのある程度の知識と心構えが必要だと思います。

【最後に】

労働者、使用者いずれの立場でも、弁護士に相談することによって早期に、より有利な解決に至ることが可能となります。労働問題に積極的に取り組んでいる群馬、高崎の井坂法律事務所に相談してみてください。