『低周波音による健康被害事件・民事裁判の経過報告』 ~さいたま地裁川越支部にて和解成立、名古屋地裁・水戸地裁にも提訴~

<さいたま地裁川越支部・和解成立>

~低周波音健康被害裁判において、初めての和解成立~低周波音被害者への朗報~
  
 平成23年7月の前橋地裁高崎支部、エコキュート低周波音による健康被害事件を皮切りに、全国各地の地裁で低周波音による健康被害事件の裁判が係属しており、現在までに、高崎のほか、盛岡、横浜、川越、名古屋、水戸の6地裁で審理されていましたが(うち、川越は工場の集塵機、水戸は氷業者の冷凍庫が音源)、川越支部の裁判で初めての和解による解決に至った事案となりました。

 この裁判は、住宅外の一角に突然工場が造られて操業開始し、被害者宅からたった2メートルの位置に設置された工場内の集塵機とコンプレッサーが発生させる低周波音が原告夫婦に吐き気・頭痛・目眩等の被害を与えてきた事案です。
 
 平成23年12月28日の提訴以来、1年3ヶ月を経た平成25年3月19日に和解が成立したわけですが、これより先に始まった3地裁のエコキュート裁判がまだ審理中(最終段階です)であることを考えると、早い展開で解決したと言えるかも知れません。 

 和解内容は、図のように工場2階内で原告居宅から2メートルの位置で稼働してきた集塵機とコンプレッサーを移動し、工場の外で原告宅と反対側の位置に小屋を造って設置するというものです。工場内にはベルトコンベアーもあり、操業を続ける以上は、無音にはなりませんが、少なくとも移動した機械の音は大きく減少したことは確実で、訴訟を行った目的は達成されたと言ってよいと思われます。

 移設費用については、当初から訴訟で音源機械として主張していた集塵機の移設費用は全額工場側負担、新たに加害音源と判明したコンプレッサーについては折半で負担することで合意しました。長年被害に苦しんできた原告としては不満が残るところですが、被害が改善することで説得して譲歩して了解して頂きました。

 本事案の特徴は、加害音源が工場機械であるため、家庭用器機に比して運転音のデシベル値が大きいこと、音源機械が隣家居室に至近距離にあることの2点です。 争点は基本的にはエコキュート関連訴訟とほぼ同じで、運転音と原告に生じている生理的影響との因果関係が最も大きく、しかも重く原告にのしかかる争点となっていました。訴訟の最終段階に入った辺りで裁判官が和解を示唆したところ、被告工場側の代理人が和解に積極的な回答をしたことから、具体的な和解案の協議に入りました。この協議段階で工場側の協力を得て原告代理人の立会の下で音源機械の稼働状況の検証が実現し、これと同時に原告宅内で行った加害音の浸透状況の確認も行うことができました。

 この実験は、集塵機とコンプレッサーを工場側で稼働停止を順次行い、同時進行で携帯電話により工場側代理人と原告代理人が連絡を取り合いつつ、各機械の稼働状況に応じた低周波音を感知するもので、本人のみならず代理人も両機械それぞれ単独での音と競合した音のそれぞれを聞き分けることができました。

 その結果、裁判では集塵機のみを対象としていたのに、和解段階でコンプレッサーも移設対象とすることができたことは、原告と被告双方が解決に向けて協力する姿勢を維持できた結果だと思います。公調委(別の弁護士が代理人でした)による棄却を経て本訴提起に至った段階では非常に対立と緊張に満ちた事案でしたが、双方の真剣な主張と立証を経て、和解という形で解決するのは、裁判という制度が持つ重要な機能であると改めて感じました。

 なぜなら、「低周波音による健康被害」というテーマはあまりに新しい問題であり、裁判所が拠り所とする「知見」が未成熟であることは否定できず、特にこの分野での取り組みが環境省を筆頭に大変遅れをとっている我が国では、司法の判断も抑制的・保守的・消極的になる傾向にあり、原告敗訴判決の確率がどうしても高くなるからです。エコキュートに限らず、「低周波音」というだけで殆ど全ての弁護士が敬遠するのはそれが原因です。しかし、この「敗訴」は決して「その音源が健康被害の原因ではない」ことを意味しません。その昔、「天動説」が常識であり、「地動説」を唱えたガリレオは迫害されたことを思えば簡単なことです。ところが、もし、敗訴判決が出れば、エコキュートの製造業者はそれを宣伝するでしょうし、被害者たちもまた提訴を控えるようになるでしょう。ますます、音源側の天下です。 勿論、勝訴は「一発逆転」ですが、確率は低く、それさえもまた控訴審で逆転される可能性も十分あります。

 また、例え、勝訴しても音源が稼動を停止するという保証はありません。結局、加害状況が解消される方向での和解が訴訟の目的と言っても過言ではないと思います。しかし、この「実質的な勝訴」といえる玉虫色の解決は、勝訴を目指す強い意志とそれに支えられた真剣な訴訟活動の結果であり、まさに勝訴判決と「表裏」の関係にあります。

 マイナス志向でじっとしていたら、希望は見えてきませんし、その途も開かれることはありません。この裁判の和解は、一連の低周波音裁判の原告は勿論のこと、救済を求める被害者の方々に一つの明るい光を見せてくれました。

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<新たに2件の低周波音健康被害事件の提訴>

 平成23年7月の前橋地裁高崎支部エコキュート低周波音による健康被害事件を皮切りに、同じ年の10月盛岡地裁(業務用エコキュート及び業務用機械)、11月横浜地裁(エコキュート)、12月にさいたま地裁川越支部(工場機械)と合計4件の低周波音関連訴訟を提起し、1件を除いて(和解により終了)審理中です。 その後、新たに、平成24年12月名古屋地裁(エコキュート)、平成25年5月水戸地裁(商店冷凍庫)と2件の訴訟を提起しました。横浜地裁に提訴準備中の案件が一つあり(非エコキュート)、提訴時点でこのブログで報告します。新件以外の裁判については、現在、1年半を経過して終盤戦に入っています。和解・判決等の動きがあった段階で報告するつもりです。平成24年7月東京地裁に提訴した国賠訴訟は、既に終結し、判決待ちです。経過も含めて改めて報告するつもりです。

◆ホームページはこちら
http://isakakazuhiro-lawoffice.jp/

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