エコキュート・エネファーム低周波音の浸透可能性に関する雑感

~室外機と被害を受ける隣家壁の位置関係・周囲の状況と被害発生との関連性・ 『音の反射』と『被害者宅壁面の開口部』の問題について~

【初めに】
 平成22年9月28日に『エコキュート高崎訴訟』の原告であるS夫妻の相談を受けた時から数えてもう8年以上が過ぎました。平成23年1月に解説した「電話無料相談」も現時点で170件を数えます。
 S夫妻の事件は,公調委での「すったもんだ」を経て,翌23年7月,提訴を報じる新聞記事を皮切りに,あれよあれよという間に,エコキュート・低周波音問題が世の中に知られるようになり,国家機関である消費者安全調査委員会による意見発表が行われるまでになりました。
 私自身もマスコミ報道とブログによる宣伝効果のおかげで,低周波音に関する多くの相談と依頼を受けることとなり,それに対応していく過程で,自らの知見を広め,経験を積むことができ,その経験,知識,情報をさらに次の仕事に生かすという相乗効果を得て,この仕事が以前以上に『ライフワーク』として定着しつつあることは大変有り難いことで,天の配剤とすら感じます。
 亡き汐見医師の著作を唯一の手引きに手探りで始めた仕事でしたが,ようやくある程度の「確信」といえそうなものをもてるようになりました。音響工学,医学といった自然科学の専門家や社会学など社会科学の専門家による所見・知見を総合して,現実の被害事例について,法的レベルでの解決や救済に繋げる法律家として,ささやかながらも「先駆け」の役割を果たせていることは大変幸運なことだと思います。  
 私のブログは,エコキュート等の低周波音が問題になっている様々な現場で役立てて貰っているようです。今回のブログは,設置前,設置後の両場面において,当座の判断を行う目安になることを期待して書いています。

【テーマ】
 『エコキュート・エネファームの運転音が隣家に健康被害をもたらす現場において,どのような条件のもとで,その運転音が隣接する住宅に浸透し,さらに,浸透した音が隣家住人に感知されるレベルの音量となるのか』という問題です。

【キーワード】
 『距離』『反射』『建物の開口』
 この3つが,低周波音問題を読み解く重要なキーワードです。

【各論】
・その1~距離と反射~
*やはり,基本は『距離』
 この問題に働く最も基本的な条件は,ヒートポンプや燃料電池と隣接住宅の壁面との距離であり,この条件が最も基本的なものです。音の距離減衰(対象が離れるほど,音量は,規則的に減衰していくという法則は,当然,低周波音にも当てはまります。私は,これを判断枠組みとして,測定前の段階で,そのケースが低周波音の問題なのかどうかについての大凡の評価をしてきました。さらに,この距離減衰を基本に据えて,解決策としての移設案を検討してきました。
 その判断枠組みは,5ないし6メートル以内が危険水域で,7ないし8メートル以上が安全圏だというものでした。この条件に他の条件が複合的に影響することも前提になっていますが漠然としたものです。現実の相談事例や依頼事件で多くのケースを経験しましたが(いずれも,最終的には訴訟受任を前提として測定しています),この基本法則は揺るぎがありません。
*『反射』は音を増幅させる
 他の条件の一つは,『音の反射による増幅』であり,このことは(社)日本冷凍工業会が出しているガイドブックにも記載があります。ただ,具体的にどのように反射して,どう増幅するかということについてははっきりしていませんが,5メートル以内の壁面同士が向かい合う位置関係では運転音が反射によって増幅していることはガイドブックに書かれているように間違いなさそうです。その意味では,ガイドブックで壁面が向かい合った位置は「不適」で,隣家相互の壁面が向かい合わない脇の位置を「適」とするのは,『音の反射』の観点では間違っていませんが,それでも距離が5~6メートルでは決して「適」ではありません。現実に,その位置で被害を発生させる程度の低周波音が測定された事例が最近ありました。
*『反射』は音の形状を変えて増幅させる
 現在,裁判所で審理中の事案ですが,大型店舗で使用する冷凍庫等の室外機がコの字型の壁に囲まれた位置に設置されて稼働しています。            相談当初,写真と簡単な図で相談者宅を含む室外機の周囲の状況を確認して,この音源による低周波音が相談者宅に届く可能性は少ないと思いました。なぜなら,音源機器から建物壁面までの距離が道路を挟んで30数メートル程度離れていたからです。エコキュートのような家庭用機器ではないことの意識が足りなかった可能性もありますが,距離減衰を考えるとそう考えても無理はなかったと思います。しかし,現場に行って間違いであったことを思い知らされました。音源から数メートルの位置ではブーンと明らかに聞こえますが,離れるに従って小さくなっていくような感じだったのが,相談者宅の庭では,ゴーンゴーンとリズムを打って聞こえてくるのです。壁面同志が反響する場合の『反射』とは異なる音の作用がここでは起きています。コの字型の箱の6面のうち開放面の2面から,その中心にある音源が発する音が相談者宅に向かって放出され,その庭で「ゴーンゴーン」という音になって感知されていたのです。このことは,先月実施された裁判の現地検分でいっそう明確になりました。音源機械直近で聞こえる音(ジー,ゴー)とは異なったリズミカルな音がコの字の壁面近くで聞こえるのを裁判官も確認したはずです。
 このように,『低周波音の反射』について,以前は,漠然と,或いは,観念的に,理屈で理解していたことを経験的に自ら体感したのです。
・その2~距離と開口部の関係
 もう一つ,最近の事例で音の建物内への浸透に関して認識を新たにしたことがありました。それは,窓や勝手口等の建物開口部がどう関係するかという問題です。つまり,音源機械の直近に開口部があるかないかで室内への浸透にどのような影響があるかという問題です。私は,これまでは,基本的に開口部の有無に関係なく,音源との距離が近い場合には低周波音は壁を経て内部に浸透するという考え方でした。従って,ガイドブックの「設置場所として建物開口部の近くを避ける」趣旨の記載に疑問を呈していました。しかし,最近,測定を実施した事例で,相談者宅の壁面から約1メートルの位置に設置されたエネファームの運転音が室内には全く浸透しない結果が出ました(エネファームの直近では運転音が計測されています)。距離減衰の基本法則からすれば,当然,相談者宅の室内に浸透するはずでした。この法則を裏切る結果を説明するには,開口部がないことをあげるしかありません。 また,私がこれまでに扱った事例(5メートル以内)の全てが音源機械の直近に開口部があったことも考える必要があります。ただ,このエネファームの製造メーカーがパナソニック等の「常連」ではなかったこともあって,屋外の測定もややデシベル値が低めでした。もっと屋外のデシベル値が高い事例での対応関係を確認したいところではありますが,音階の測定データを見る限り,開口部の影響を無視するわけにはいきません。

<結論>
*最善は音源機械と隣家壁面との距離を7~8メートルおくこと,併せて,二つの 壁面による反射を避ける
*隣家建物壁面に開口部がなければ距離が近くても音が届かない可能性がある
 エネファーム,エコキュート等(燃料電池系の「エコウイル」やエコキュートのバリエーション的な「エコワン」などの製品も含まれる)の音源機器の設置場所(施主の立場で)や,移設場所(被害者の立場で)を検討する場合のチェックポイントは,①『距離』が近い,②壁面が向かい合って『反射』を招く,③被害者宅の開口部が直近にある,という3つの要素を揃えないこと,ということになります。
 移設の場合は,③の開口部は塞ぐ訳にいかず,どうしようもないので,結局,できるだけ,①の距離を遠くして,②の反射を避けるべく,道路や空き地等の開けた空間に向けて設置することです。この場合,例えば,7メートルの距離があり,音源機器の前面が空間ならば,ベストです。実際にこれまでの和解例のほぼ全てがこの条件を満たしています。
 また,現位置から反対側に移設した例も少なからずありますが,この場合は,距離は10メートル以上になり,何より,施主の建物が被害者宅と音源機械の間に所在していますから,もはや物理的に運転音が被害者宅に浸透する可能性はゼロでしょう。
 音源機器の施主が隣家壁面から2メートルの現位置から5メートルの位置(隣家壁面に面しない位置)に移設してくれたが,運転音の浸透状況に大きな変化がなく,充分な対応をしたと思っている施主との対立が一層深まってしまった例がありますので,注意が必要です。
 このようにみていくと,基本要素である『距離』を7~8メートルとることが第一であり,移設しても5メートル程度の距離しか取れない場合は,両建物の位置関係や周囲の状況次第で結果が分かれるということになります。