はじめに
前回のブログで,茨城県K市の事例と共に解決の報告をいたしました。ただ,新潟県N市の事例では,二つの音源機械が課題となっていて,2台のうち大型室外機の稼働廃止によって一応は解決したものの,ヒートポンプは保留のまま様子見で終ったと報告しました。まだ問題は残っていたのです。
ヒートポンプの問題が保留で終わらざるを得なかった理由は,大型室外機(被害者宅壁面から2mの位置)の老朽化,耐用年数の経過等による騒音の発生が測定結果から明らかであったことに比して,ヒートポンプによる低周波音が申立人宅に到達していることが測定記録上,明確でなかったこと,そして,ヒートポンプと被害者宅壁面(開口部)との距離が約7メートルであったこと(私は約8m以上の距離をボーダーラインとしています)でした。これらの事情から相手方(隣家)から移設することについて了解を得ることができなかったのです。私が通常扱っているヒートポンプ事例の多くが2~5mの位置にあることからも,私自身が大型室外機の稼働停止によって解決することを期待していたのも確かです。
距離はともかく,測定データでヒートポンプが発生させている低周波音が被害者宅に到達していることが客観的に把握できれば結果は違ったと思いますが,①音源機械が競合していること,②室外室内2ポイントでの測定でなかったことの2点において決め手に欠けていました。だから,前回調停合意の際に,「一緒に移設してくれればいいのに」と歯がゆいことこの上なかったのですが引き下がらざるを得ませんでした。
健康被害の残存と再測定
そこで,昨年8月28日の調停成立により大型室外機の稼働が停止した後,被害者は,低周波音の到達状況と生理的影響の有無について様子を見ることとなりました。そして,間もなく,連絡メールが届きました。「以前よりは音量(騒音・低周波音)は減ったが,まだ,深夜,早朝に低周波音が聞えて(正確には「感知され」)不眠等の生理的影響は続いている」という報告でした。正直,疑心暗鬼の気持ちも僅かにあり,測定すれば,『気のせい(つまり,聴覚異常や後遺症的な症状)』であるかどうかもはっきりするので,その点も含めて説明して了解を得た上で,再測定の提案をし,即同意を得たことは言うまでもありません。
私は,直ちに,再測定の実施に向けて,前回測定報告書を作成した新潟市内の測定業者(同じ担当者)と頻繁かつ綿密な打ち合せを行いました。彼の熱心で真摯な仕事への姿勢には敬意を惜しみません。自宅内の全ての音源停止,測定ポイントの指示はもちろんですが,特に,測定データの分析・評価,測定報告書に表示するポイント,その体裁などについて議論を重ね,両者の意見が一致したところを報告書に纏めることができました。
再測定の結果
結論としては,音源をヒートポンプと特定することが可能なデータが計測されました。もちろん,実際に計測された生のデータは単純ではなく,多くの周波数域でピークが示されたものの,自宅内と室外のピークが対応関係にあり,しかも,室内のそれがISO閾値と欧州ガイドラインを越えるという条件を満たす数値を把握する作業は手間取りました。勿論,前回の測定結果と比較照合する作業も行いましたが,一応の整合性は得ることができました(音源機械が競合していることや,その他の環境等の違いのため数値がぴったり一致しないのは当然です)。
ここでは数値は省略しますが,深夜(午前0時~1時)と早朝(午前4時頃),63ヘルツと125ヘルツで室内外で対応し,一定のラインに達するピークがデータ上に表れました。
前回の測定記録では大型室外機の陰に隠れて表面に表れてなかったヒートポンプ固有の低周波音が再測定で見事に表れるという結果になりました。室内と室外で対応する周波数域でピークが示された以上,ヒートポンプ以外に音源は存在しません。 民事訴訟上の立証はともかく,交渉段階での証拠資料としては十分です。少なくとも確信をもって民事調停に臨むことができます。前回と同様に,こちらが示す客観的資料に隣家が理解を示してくれることを祈るばかりです。
新潟県N市事例における感想
こうして,図らずも,N市の簡易裁判所に2度にわたり民事調停申立を行う異例の事態となりましたが,そのお陰で従来以上に精度の高い分析を行うことができました。またある意味で「音」は『生き物』だということを実感しました。
そして,やはり音源機械の位置関係や被害者宅壁面との距離は『目安』であってそれのみで即断してはならないということが身に染みました。