『エコキュート低周波音による健康被害事件、民事訴訟提起』の報告Ⅱ~前橋地裁に続いて、盛岡地裁・横浜地裁にも提訴~

2011年12月3日

<提訴の報告>
 今年7月15日の前橋地裁に引き続き、10月27日、盛岡地裁に対して岩手県北上市の被害者が、11月4日、横浜地裁に対して鎌倉市の被害者が、同質の裁判を提起しました。エコキュートメーカーに対する製造物責任、施工業者に対する施工上の配慮義務違反の点はいずれも同じですが、盛岡地裁のケースは、東北地方の静かな地方都市の住宅街の一角に出店した全国チェーンのうどん店が被告に加わっていることが他の2ケースとは異なります。さらに、他の「家庭用エコキュート」と異なって「業務用エコキュート」であること、エコキュート以外の業務用器機も加害音源として挙げていることもポイントです。しかし、問題の本質は他の2ケースと同じです。
<前橋地裁高崎支部における裁判の経過報告(1)>
 先行している前橋地裁の裁判では、サンデン側が『公調委に対する原因裁定の嘱託』を裁判所に求めてきました。このブログを前から読まれてきた読者はお分かりでしょうが、もし、これを裁判所が受け入れるようなことがあれば、前に述べた「司法の威信を回復した名判決」の『威信』は行き場を失うことでしょう。これまでの裁定例を見る限り、公調委は、『低周波音問題対応の手引書』に忠実に従って判断を行い、『参照値』を現場の低周波音の測定値が下回っていることを理由に極めてシンプルな論理で申請を棄却しています。これが我々の公調委の申請取下げ・提訴の理由でこれまたシンプルです。
 最近、一人の弁護士の手による騒音・低周波音等の紛争解決方法に関する文献に、「司法手続と公害紛争処理法による手続とでは・・・基本的には後者を選択するのが適当である」との著述部分がありますが、理由として述べられる公調委の元審査官の「自画自賛」を始めとして殆ど「建前」ばかりで、説得力のある理由は全く述べていません。他の有益な著述を無にしてしまう有害性を秘めた問題のある著述と感じずにはいられません。公調委による手続は、エコキュート(に限りません)低周波音被害者にとっては、『申請』のスタートから『棄却』というゴールに至るシステムであると言っても言い過ぎではありません(私は客観的な根拠によってはっきり言います)。前述の著述も、もし著作者が現実の一人の被害者の立場に身を置いて考える洞察があればとても書けないことだと思います。公調委が裁定において『聖書』のごとく扱っている「手引書」が示す「参照値」について、環境省自身が自治体担当者等に対して「施設を建設する際の基準値とするなど、誤解された使用が散見されています」と取扱上注意するよう通達していますが、公調委は原因裁定において、正に「参照値」を「基準値」とする過ちを堂々と犯しています。例え、「目安に過ぎない」と断ってるとは言え、国が「参照値」を出していること自体が被害者にとって大きな罪であると言わざるを得ません。公調委も環境省も行政機関だからこそ、『司法の独立』を謳う裁判所の存在が重要なのです。
 低周波音の被害者は、『建前』自体、そして『建前』によって造られたシステムによっては、決して救済されないという現実をいやと言うほど経験してきた人たちです。裁判所までが『建前』に寄り添って、司法を最後の砦として頼みにする被害者たちを失望させないことを信じて弁護活動を続けていきたいと思っています。
<訴訟についてのコンセプト(続)>
 これまで、私は「エコキュート利用者である隣人には非がなく、第1の責任者である製造業者と第2の責任者、施工業者を被告とする」との基本姿勢を明らかにしてきました。この基本姿勢に変わりはありませんが、エコキュートを利用している隣家に対する働きかけという点についての考え方に若干の変化というか、進化がありましたので、それをここで述べたいと思います。
 これまでも、論理はともかくとして、解決に欠かせない当事者を被告から除外することには葛藤がありました。それは、低周波音の音源を所有して支配する当事者である隣人と無関係に、音源が内包する違法性の問題を裁判で審理していくことにつきまとう『歯切れの悪さ』でした。最近、それを解決する途があることに気付きました。つまり、責任の有無とは別の次元の問題で、やはり音源の所有者・支配者として道義上、さらには法律上、何らかの要求をしてもおかしくないのではないか、という疑問が沸いてきたのです。この疑問は、裁判例が認める『人格権に基づく差止め請求』という論理によって解消することが可能です。例えば、京都地裁は、「健康で平穏な生活を享受する利益が人格権として保護されるべきであり・・(それが)侵害される場合には・・排除を求めることができる」と判示しています。つまり、例え落ち度がなくとも、エコキュートの利用者は、『自らの支配下にある事情によって』被害者の人格権の行使を妨げていることを根拠として差止め請求を受けることになるのです。例えば、有害物を排出する物件を所有利用する人は、それによって被害を受ける人がいる以上、落ち度があろうとなかろうとその排出を止めなければならないのは当然です。
 これまで、私は、エコキュート利用者が業者である場合を除いて、裁判の被告としないと立場をとってきましたが、それは被害者自身が隣家を被告として争うことを欲していないという事情を前提としていました。しかし、被害者自身が隣家を被告とすることを強く要望する場合は、隣家に対する差止め(つまり、ヒートポンプの稼働停止)請求を積極的に検討したいと思います。
<日本冷凍空調工業会への公開質問書~その後>
前にブログで公開したとおり、平成23年6月17日、日本冷凍空調工業会に対して質問書を送付しました。しかし、回答はもちろん、何の連絡もありません。同工業会は、私の質問書に対して、『無視』という選択をしたようです。私の質問に対応を始めれば最後、ずぶずぶと底なし沼にはまっていくことを承知しての工業会としては賢明なる選択をしたのでしょう。取り敢えず、現時点では、予想どおりの無言の『回答』であったことを報告します。                  

【新聞記事】
2011年11月17日 朝日新聞(PDF)
2011年10月28日 読売新聞(PDF)
2011年10月28日 岩手日日(PDF)

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