2015年9月のブログで,所沢在住の被害者が原告となって,隣家・パナソニック・施工業者を相手取ってさいたま地裁川越支部に民事訴訟を提起したことを報告しましたが,この裁判は,2年余を過ぎた平成29年11月14日に和解が成立して裁判が終了したことをご報告致します。
同年の5月に和解の機運が生じて,以来,裁判長の強いリーダーシップの下で,約半年間,6回の期日を重ねて和解成立の運びとなりましたが,原告にとっては苦渋の選択であり,正に,着陸地点を求めて苦労の上で軟着陸した感があります。
隣家夫妻が移設を許容できる位置と原告が被害発生を可及的に防止できると考える位置とにどうしてもギャップがあり,これを埋めるためにギリギリまで折衝を行った結果,最後に辿り着いたのが原告宅末端部から5.4メートル離れた位置への移設という和解案でした。原告宅の真正面から脇の位置への移設で,現在の位置よりも,音の反射が減少すると予想される点が,距離の不十分さを埋め合わせてくれることを期待しました。
私は,常々,「ヒートポンプと被害者宅外壁との直線距離約5m以内が危険領域であり,8m付近から安全圏に入っていく(勿論,8mでも低周波音が被害者宅に到達する可能性はあるから,移設する場合は,10メートル以上遠ざけることが望ましい)」と公言していますから,当然,私自身が「安全圏」と認識していない位置への移設という和解は,それ自体,が冒険なのは当然と言えば当然です。それにもかかわらず,決断したのは,現状維持より,改善の可能性を選ぶことが訴訟の目的に合致すると考えたこと,そして,何よりも,「審理継続→判決」によるリスク回避です。冒頭で,「苦渋の選択」と述べたのはそういう意味です。
訴訟という枠組みでは解決した訳ですが,完全なる被害救済という観点では,今後に課題を残す裁判でした。一方で,隣家側の事情や意向という大きな壁が立ちはだかり,他方で,和解が決裂すれば,勝訴敗訴いずれかの判決という終了の仕方しかなく,いずれの結果にせよ,高等裁判所,さらには,最高裁へと手続は続き,現実の被害救済とは次元の異なるルートを辿るしかありません。
ケースバイケースですが,このように,裁判では,ときに厳しい選択を迫られることがしばしばあります。現実の移設位置は,当然,和解の場面では被告のなかで唯一のキーパーソンである隣家住人の意向によって解決方法が大きな影響を受けざるを得ないという低周波音問題の宿命が現実化したと言えます。
とは言え,原告らと非常に深い対立の溝を挟んで長年にわたって対立して訴訟にまで至った本事例で,隣家夫妻が移設に応じる意向に転化し,和解が成立したことは,高崎訴訟と同様に,低周波音被害者に対して希望を与える材料であることは確かです。
また,製造業者であるパナソニックが技術面で協力し,施工業者は移設工事を担当することで協力するという形で,被告3者全員が参加しての和解ができた点は,今後の類似訴訟への影響という意味で意義が大きいと考えています。
そして,製造業者と施工業者の2者を交えた和解の成立は,低周波音被害者全体の立場で考えた場合,平成25年の高崎訴訟の和解から4年ぶりの朗報であり,一歩進んだことは間違いなく,提訴報告のけじめとして報告した次第です。
朝日新聞記事[PDF]