~ヤマダ電機に対する訴訟提起の予告も含めて~
*始めに
今回のブログでは,エネファームとエコキュート,それぞれ1件ずつの報告となります。特に,千葉簡裁のケースは,これまでとは異例の経過を経て,施工業者(ヤマダ電機)だけを被告にして提訴するという点がレアーケースであると共に大きな
意義をもっています。
これまでの訴訟は,製造物責任と差止め請求の影に隠れ,大和ハウスやヘーベルハウス等の施工業者は影が薄くなる傾向があったことは否定できません。
確かに,例えば,製造物責任は,差止めや不法行為に比べると格段にスケールが大きく,社会・経済的影響の点でも格段の差があります。しかしその一方で(裏腹に),現実性や迫真性が希薄になってしまい,エコキュート等の販売,施工における責任についての問題意識が希薄になるという副産物がついて回ります。「製造」はマクロ的ですが,「施工」はミクロ的で,現場は後者に属します。
そうです。法的責任や社会的スケールの問題を離れて考えると,製造段階のことはさておき,販売と施工(これはセットです)の現場で,隣家に対する配慮があれば,隣家への健康被害発生はなくなるか,少なくなることはあきらかです。
もちろん,配慮した分だけ,売上の減少は避けられません。しかし,施工業者は,例え,利益が削られようとも,隣家への悪影響を回避することが社会的存在として求められるのです。日本企業には企業内倫理というものが欧州と比べて格段に欠けています。
消費者安全調査委員会が関係各省に製造業者や施工業者に対する指導を要請して久しいが,業者らは,まさに「どこ吹く風」の精神で製造・販売・施工に邁進して日本経済の発展に貢献しています。かくして,「タテマエとホンネ」の完全なる使い分けが横行し,ごく少数の隣家被害者の被害には目をつむっているのが現状です。
その意味では,この訴訟は,ヤマダ電機の異例とも言える不誠実・傲岸さが動機の一つとなってはいますが,同社には施工業者の代表として社会的責任を問うつもりで提起しています。
*エネファーム(川口簡裁)
前回報告した伊丹簡裁の解決事例の後,昨年5月に,川口簡裁でエネファームの事案(建築ジャーナルに写真と図が掲載されている事例です)が解決に至っています。加害音源であるエネファーム本体を当時の2メートル弱の位置から約8メートルを確保した位置に移設した結果,健康被害は完全に解消しました。私は,音源機械と隣家外壁との距離について,5メートル以内は危険,7~8メートル以上が安全圏と言ってきましたが,やはり,間違いはないようです。
消費者安全調査委員会の報告でも,壁などに反射することによって運転音が増幅することが指摘されています。つまり,エコキュート・エネファームは施主宅の裏手に設置されるのが一般的で,しかも,最近の新築住宅は細分化されて分譲される結果,隣家建物との距離が2メートル程度の境界域に設置されることが多くなっています。運転音が両対面の壁に反射して増幅して,本来あるはずの距離減衰がないため,隣家により大きな音が浸透して健康被害をもたらします。
私が報告する解決事例では,このような「至近距離プラス対面状態」の位置から,側面に移設することで,充分な減衰が見込める距離を確保すると同時に,音の反射を回避することができているのです(現位置から反対側に移設することもありますが,この場合は,距離や反射を考えるまでもなく音は被害者宅に届きません)。
建物の側面に移設する場合は,距離の確保と共に,音の反射が回避できるため,5~6の距離でも被害が解消する可能性はあります。私が常日頃「5メートル付近が危険・安全を判断する境界」と言ってるのはそういう意味です。
この機会に民事調停の申立から合意成立までの期間について触れておきます。
伊丹簡裁の事例は,6月7日の申立から9月9日の合意まで3ヶ月という短期間で解決していますが,これは,施工業者のI工務店が非常に誠実な対応をしてくれためです。I工務店は,移設工事費用を全額負担している点も特徴的ですが,上田簡裁の事案に引き続いて2度目であったことが迅速かつ誠実な姿勢を導いたことは想像に難くありません(私は,このI工務店を当初こそ敵視していましたが見直しました)。なお,上田簡裁では,4回の期日と5ヶ月半を要しています。川口簡裁では6回の期日と約6ヶ月を要しました。
今のところ,回数は4~6回,期間は5~6ヶ月が標準のようですが,「そんなにかかるのか」と言わないで下さいね。これは成功例で,調停が不調で終わった場合は,裁判になっていることをお忘れなく(それはブログで報告しています)。
*エコキュート(千葉簡裁)
昨年11月29日に申立て,今年8月31日の4回目の期日に合意が成立しました。9ヶ月という期間は異例です。というのは,エコキュート・エネファームの事案では,初回に拒絶されて一回で終わるか,初回に「前向きに検討する」と回答を得て2回目以降に詰めに入っていくのが通例だからです。(隣家)は初回から「対応する」旨の意向を示した上で,「後は,施工業者のヤマダ電機と話を進めてほしい」と回答したのですが,その後,手続に参加してきたヤマダ電機(社内弁護士の代理人がついています)の対応のまどろっこしいこと。どうやら,本社と現場(テックランド船橋店)の連絡系統がうまくいっていないことが原因のようでしたが,なかなか見積書を出さなかったり,出しても高すぎたりとか,怠慢,或いは,不誠実の誹りは免れません。
それはそれとして,もっと問題なのはヤマダ電機の「対応」の中身です。先に,全額負担したI工務店の話をしましたが,他にも,さいたま地裁川越支部で和解が成立した事案で,被告の施工業者は負担こそしないものの,約15万円の見積を出して移設工事を行った事例があります。ヤマダ電機は,しゃあしゃあと39万円の見積書を出して被害者に負担させました。もともと当事者という意識がないので,その意味では「悪気」はないのでしょうが,儲けようという意識はバリバリあったわけです。それも,当初出してきた57万円の見積書に怒った私が標準価格と思われる資料(実際の解決例での見積書)を示して抗議した結果です。推測になりますが,ヤマダ電機は(下請けの儲けも含めて)この紛争に乗じて40万円の利益を貪ろうとしたことになります。
このように,依頼者Y氏に長年にわたって健康被害をもたらした元凶であるヤマダ電機は,他人ごとのような顔をして(顔だけでなく,意識も「他人ごと」)法外な値の見積を出してきましたが,私は,Y氏に「ここは我慢をして下さい。我々の目的は健康被害の解消です,それはもう目の前です」と説得して,見積に異議を唱えず普通の2倍相当の工事費用を預かって工事完了後に施工した業者に送金しました。説得に際して,私が,「この敵(かたき)は,裁判で晴らしましょう」とY氏に言ったことは言うまでもありません。
さて,肝心の移設場所ですが,伊丹簡裁の事例(建物側面に移設,距離は6~7メートル)とほぼ同じ移設態様で,それより若干遠いと思われる位置への移設です。移設後のI氏からの電話を受けるのも不安でしたが(「まだ,聞こえる」と言われるのではないかと),「よく眠れるようになりました」との返事に安堵した次第です。 近いうちに,ヤマダ電機に対する訴訟提起の報告を行う予定です。これまでのエコ・エネ訴訟は全て,隣家(差し止め),製造業者(製造物責任),施工業者(不法行為)の3者を相手取った裁判でしたが,健康被害自体の問題が解決したあとで,なお施工業者だけを提訴するのは初めてです。というのは,先に書いたように,これまでの調停事案では,施工業者はそれなりの対応をしていて,被害解消後に遺恨を残すことはなかったのですが,ヤマダ電機は目に余るものがあり,いわゆる「落とし前」をつけざるを得なくなったのです。そうです。「あのとき,40万円ぽっちを儲けなければ,かような大仰な裁判を受ける羽目にはならなかったのに」と,ヤマダ電機は後悔するでしょう。
*追伸
現在,東京簡裁で2件,民事調停が始まりました。エネファーム(新宿区,被害者宅外壁から音源機械まで2メートル強)とエコキュート(大田区,被害者宅から15メートルの位置にあるホテルリがニューアル時に10数台設置)の事案です。 同じ時期に東京簡裁に2件の調停がかかるというのは珍しいことですが全くの偶然です。エネファームの事案は次が2回目で,エコキュートの方は1回目です。
どのような展開になるにしても,いずれブログで報告いたします。