<法律家が示す「環境省ガイドブックの読み方」>

2020年9月4日

 正式名称は,『省エネ型温水器等から発生する騒音対応に関するガイドブック』です。これに『地方公共団体担当者のための』が頭に付きます。
 前回のブログでかなり突っ込んだ評価を行いましたが,それでも省エネ型温水器による低周波音被害者はまだ迷うだろうし,『地方公共団体担当者』も戸惑うでしょうから,この続編で整理することにします。
 地方自治体の環境関連担当者は,是非,このブログを読んで,迷いを解消し,窓口に来た市民に正しく対応して下さい。
 
1 二つの手引書の関係はどうなるの?
 再度,ガイドブックの構造を解説する前に,同じく環境省が平成16年に発表した『手引書』との関係を法律家の立場から明らかにしておきます。
国語的には,『ガイドブック』と『手引書』は全く同意語です。そうすると,環境省は,平成16年と令和2年に「手引書」を重ねて発表したことになります。英語にしたからと言って違うものにはなりません。
 『平成16年手引書』を『令和2年ガイドブック』に改訂したのならすっきりしますが,野放図にも『平成16年版』をそのままにして『令和2年版』を出したのです。内容が同じなら問題ありませんが,最も重要な基準値が大きく変わって新しい方が厳しくなっているのです。
 ただし,同じ「手引書」ですが,平成16年版は「低周波音問題」の手引書,令和2年版は「省エネ型温水器から発生する騒音」の手引書です。従って,論理的に両者は「一般」と「特別」の関係になり,形式的には整合しています。
従って,二つの手引書は,「低周波音問題一般」と「省エネ型・・騒音」に関するものとして扱うのが正しいことになり,「低周波音問題一般」は平成16年版を「手引き」とし,これを予備知識として「省エネ型・・騒音」については令和2年版を「手引き」にすればよいことになります。
2 基準値の違いをどう考えればよいのか?
 エネファーム・エコキュートの騒音(低周波音)問題に関する場合は,令和2年版を参照すればよいとしても,我々は,令和2年版は,平成16年版による旧基準(参照値)と令和2年版の新基準(感覚閾値)を抱え込んでいるという問題に直面せざるを得ません。うっかりすると,「なーんだ,結局,平成16年の手引書のままじゃん」とがっかりして終わってしまいかねません。
 どうしてこうなったかは,前のブログで私が推理したとおりですが,大切なのは,このガイドブックをいかに被害者に有利な資料(知見)として利用するかです。我々としては,「環境省は『感覚閾値』を新しい指針とすべきことを打ち出した」と言う必要があるのです。
 ここで,法律家独特のテクニックによる論法を披露します。単純に,二つの手引書を読むと,低周波音に関する苦情について,当該運転音が原因であるかどうかを判断する指標として,旧版は「参照値」とし,新版は「感覚閾値」としています。このように同じ規制対象について二つの基準値が法令等で定められた場合,例えば,公害等について国の法令が定めた基準値よりも厳しい基準値をその地方に即して条例で定める場合があり,それを「上乗せ条例」と呼びますが,厳しい基準値が有効に適用されます。要するに,ある規制目的を同じくする問題について数値がことなる2種類の基準が規定された場合は,厳しい方が適用されることになります。
 この考え方に立てば,当然,新たに発表された厳しい基準が適用されるのは当然です。この考え方は,新ガイドブックに内包された二つの基準値についても当てはまり,当然,新しく発表された厳しい基準値が優先されます。
3 ガイドブックの見方
 令和年版ガイドブックの全体を見ると,6pの「苦情対応の手順」として示すフローチャートで「5 参照値と比較」という表記が登場し,その説明文の8p「5,参照値と比較」で「詳細は平成16年度版手引書を参考にして下さい」という一文がありますが,この部分を取り除くと,ガイドブック全体をすっきりと読むことができます。
 このような読み方は,法律学では,「合理的意思解釈」と呼び,契約書等の作成者の意思を合理的に解釈することによって矛盾を克服して解決に導きます。 
 『令和2年版ガイドブック(手引書)』は,「エネファーム・エコキュート運転音(低周波音)を原因とする苦情については,『感覚閾値』を指標として判断するという新たな指針を打ち出した」と読むことができるのです。  

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