北陸地方では初めての解決事例です。そして,音源機器は,パナソニック製エコキュートです。被害者宅の開口部から約3メートルの位置に設置された典型的な被害事例で,測定をするまでもなく,被害者宅内でかなり高いデシベル値の計測が予想されました。測定の結果は,案の定,午前3時から午前6時にかけて,130Hzで,室外60㏈,室内で45㏈という異例の高数値を得ました。
私がこれまで寛容した数十件に及ぶ測定値の中でも最高であり,かの参照値さえ超えるので,もし,勝訴できるとすればこの事案であろうと思うほどです。
大変閑静な地域ということも影響しているかも知れませんが,このデシベル値に相応して被害者の方の健康被害は特に重いものでした。
この事例の特徴は,なんといっても,第1回期日前に,施工業者が代理人弁護士を立てて本調停に参加申立をして,第1回の調停で代理人から解決策を講じると回答があったことです。そして,第2回期日には,代理人同士で協議した移設案で合意するというスピード解決ができました。コロナ禍のため,申立してから第1回期日まで待たされましたが,第1回期日から移設工事完了まで約2ヶ月というのは最速です。
この施工業者が依頼した代理人が別件(他県の簡裁調停事件)の低周波音事件で一度,面識があり,手慣れていたことも大きかったと思います。実は,相手方が弁護士を立てるのは,断固拒否するための場合と,今回のように適切な解決を図るために依頼する場合とにきれいに分かれます。
しかも,移設先は,当初の位置から10メートル以上移動して反対側ですから,運転音は,依頼者宅内は勿論,境界付近にすら到達する可能性はありません。その意味では理想的な解決と言えます。実際に,製造業者が「・・メートル以上離すと保証できない」と言って,調停の途中で口出しをして,満足な移設ができなかった悔しい経験がありますが,ヒートポンプを10数メートル以上移動した例が他にもあり何の問題も起きていません。要は隣家の被害を改善しようという気があるかどうかです。
今回,ブログでの報告に値する点がもう一つあります。それは,ヒートポンプ移設後における被害者の音の感知と被害回復の経過について,はっきりとしたリサーチができたことです。前にブログで書きましたが,音源機械の撤去・移設によって低周波音自体が被害者宅内に浸透しなくなっても,移設前と同様の被害を訴える事例があります。これは,現実の低周波音による影響で聴覚器官に何らかの障害が生じて後遺症のように被害が残る場合が稀にあります。
そのため,折角,法的手続で奏功して,撤去・移設した後でも,依頼者が「音がなくなりました。よく眠れるようになりました」と言ってくれるまでは安心できないのです。勿論,電気機温水やエコジョーズに交換後,即,改善したことを報告してくれる依頼者が殆どですが,特に,被害が重篤な場合はやはり心配になります。
今回,依頼者から頂いた報告では,移設後,二日経過して,以前聞こえた音は聞こえなくなったそうですが,やはり,緊張して,時々,夜中に目が覚める感じがあったようです。二晩目に夜中の3時に目が覚めて,音が聞こえるかどうかを窓を開けて確認したところ,全く音がしないので安心して床に着いたそうです。この報告を聞いて私がどんなに安堵したことでしょう。今回の移設状況からすれば当然なのですが。
毎晩毎晩,夜中の3時頃に音で目が覚めることを繰り返してきたので,頭や体がそれを憶えて目が覚めるというのも厳密に言うと後遺症的な現象ですが,音がないことを知的に理解することによって,まず頭で分かって,しかる後,体もそれに応じて新しい環境を正しく受け入れるという過程がはっきりと分かりました。
最近,稼働前後のケースを通じて,施工業者が迅速に対応して解決する事例が増えてきた感じがします。これも「消費者安全調査委員会」意見発表の影響でしょうか。とは言っても,「裁判,上等!」という姿勢で隣人と争う構えを隠さない隣家に遭遇してしまう依頼者もいて明暗を分けます。
折角,気に入って導入したエコ製品を普通の給湯器に変えるのが残念なのは分かりま。しかし,自宅の設備機械の運転音のために隣家が苦しい思いをしているのに,それを何とかしようと思うことなく,裁判になっても「違法ではない」と争う姿勢を変えず,裁判官が解決策を提案して全体が原告に同情をする空気の中で,被告の一人である隣家が最後まで頑なに和解に応じようとしないのは,全く,理解に苦しみます。むかし,「新人類」という言葉がはやりましたが,私はその言葉がしっくりときます。 勿論,裁判の過程で和解に応じてくれる被告隣人もいて,裁判になってもやはり真っ二つに分かれます。パナソニックのように,エコキュートという製品を担っている訳でもないのになぜ?
「いじめ」問題と同じく,今の日本で表れてきている深刻な問題がそこに見えます。