~法律のホームドクターから~
『例えば、請求時から1年以上過ぎた「売掛」について、請求書を出す程度でほとんど「放置」に近い状態にしていませんか?また、それも1、2件程度ではなく数百万円にもなっていませんか?
これが今ここで経営者の皆さんに呼びかけようとしている『債権管理』のテーマです。そんなに難しいことでもなく、大きなコストがかかるわけでもないのに、ただ方法がよく分からなくて、そんなにせっぱ詰まった問題でもないので、偶々おざなりになっている、そんな問題について「ホームドクター」のようにアドバイスをして経営力のアップを図るお手伝いが出来れば幸いです。』
<売掛債権を無駄にしていませんか~売掛債権の見直し>
ここで『例題』を出します。
『ある製品を販売するA社は、以前に取引をしていた顧客が50万円の売掛債権を残したまま、最後の取引から2年が過ぎようとしているのに一向に払ってくれません。さて、皆さんならどうしますか』という設問です。
回答例として、a何もしていない(もう諦めた)、b定期的に請求書を出す、c法的手続きを取る、の3択で答えて下さい。
まず、cの回答者にはアドバイスは不要ですね。aはどうでしょうか、これも合理的な理由によるものなら、立派な経営的決断としてOKです。問題は大多数の回答が集中すると予想されるbですが、『債権管理』の観点からは不合格です。全く無駄ではありませんが、結局、放置しているのと同じになります。「財産」に他ならない売掛債権を無駄にする結果になります。「どうして?」と思った方は次に読み進んで下さい。
<まず、時効消滅を阻止しましょう~債権管理の着手>
「なぜ、無駄にする結果になるのか?」この疑問こそが債権管理の出発点です。
その理由の一つは、売掛債権の消滅時効が非常に短いこと、もう一つはただ請求書を出すだけでは時効消滅を食い止めることが出来ないことです。
「時効」の意味やイメージは何となく分かると思います。要するに、一定の期間が過ぎるとその債権が消えてしまう(正確に言うと、行使できなくなる)ことです。
でも、1年や2年で消えるとは思っていませんね?ところが、飲食店や運送業は1年、生産者、卸業・小売りは2年、建設業は3年という短期消滅時効が適用されます。これらは民法の規定ですが、長くても商法の5年が適用されることになるでしょう。多くの商店や会社は短期の3年が適用されると思います。予想外に短い期間で売掛が消えてしまうのです。
『ワンポイント・アドバイス』
→ “自社が扱う商品や取引について適用される消滅時効期間を知りましょう”
次の問題は、債務者に請求書を出すことで時効消滅を食い止めることができないか、という点です。葉書や封書等による「普通の請求」は、一応、時効を「中断」する、つまり、時効期間の進行をとりあえず止める効果がありますが、6ヶ月以内に「裁判上の請求」をしないとその一時的に生じた効果がなくなってしまいます。例えて言うと「応急手当」だけして、「病院での本格的治療」をしないでいると駄目だということです。「応急措置」的請求は後で証明できるように「内容証明郵便」で出す必要があります。
『ワンポイント・アドバイス』
→ “時効中断のための適切な措置を取りましょう”
次の「本格的治療」が大切になってきますが、これは基本的に『訴訟』すなわち裁判をすることです。次にお話しするように、「債権管理」は自然と「債権回収」に繋がっていきます。その「債権回収」の中核となる手段が訴訟ですが、何が何でも裁判というわけではありません。ここで、お手軽で、しかも(裁判と同じ)効果的な中断方法をお教えしましょう。法律上、『承認』と言われるもので、売掛債権の存在を債務者が署名押印して確認した書面を貰うことがそれにあたります。建設業で言うと、「残高証明書」というのがそれです。これは、既に時効期間が経過してしまった場合の唯一の打開策で、いわば「敗者復活戦」的な手段にもなるものです。
<債権回収に向けて動き出そう~債権管理から債権回収へ>
売掛債権が消えてしまわないよう措置を取ることが重要であり、この措置を適切なタイミングで取れるよう日常的に整理していくことを日常的に行うことが『債権管理』なのです。
この『管理』は何のためにするのでしょう? その答えは、もちろん『回収』です。もし、回収しないのなら、むしろ、売掛債権から切り捨てるという経理上の処理を会計事務所を通じて行うべきです。これも債権管理の一貫です。
先に述べた内容証明郵便による請求は、時効中断のための手段でもありますが、同時に、『債権回収』の始まりでもあります。時効中断のための請求は、ただ送付すれば目的を達しますが、債権回収のためにはそれでは足りません。つまり、本気で回収しようと思ったら、次の手段を前提として請求することが必要です。ここからが弁護士の出番ということになります。つまり、「訴訟」と「強制執行」という法的手段」を前提に弁護士が代理人名で請求することによって債権回収の現実的効果を期待することができます。代理人弁護士による内容証明郵便で回収が出来ない場合は、次の手段である訴訟へと進めることになります。裁判で和解に至らず、判決が出ても任意に支払わない場合は、銀行口座や債権を差し押さえるという強制執行を検討することになります。
ここで、段階に分けて手続を整理してみます。
債権回収には、大きく分けて、①本人名の内容証明郵便による請求、②代理人弁護士名での内容証明郵便による請求、③訴訟での請求、④強制執行、という4つの段階が考えられます。
まず、経過年数や債務者の動向(例えば、夜逃げ状態)によって①又は②へ進めるかどうかの振り分けを行います。②に進める前に、前記の「承認」を取っておくことも考えられます。そして、②の段階を経たうえで、弁護士と経営者本人の協議により③に進めるかどうかを検討します。④まで進める場合はかなり少ないと思いますが、たまに奏功することもあります。
以上のように段階毎に振り分けながら、手続を進めて、債権を切り捨てる税務処理を併行して行う、という『債権管理と債権回収』の理想的な処理手順と言えます。
『ワンポイント・アドバイス』
→“売掛債権の振り分けをして、手続を進めよう”
最後に、経営者にとって一番大切な問題であるコスト面について考えましょう。
経営者にとっての空極の目標は何でしょうか?
それは、少しでも多くの利益をあげて、少しでも損失を減らすことですね。そうすると、売掛債権の回収という特に結果が不透明な目的のために大きなコストをかける気にならないのは当然のことと言えます。例えば、完成・引渡が終了したのに不具合等の難癖を付けられて請負残代金1000万円を払わないというような場合ならともかく、1年も過ぎた売掛債権の請求に大きな費用を負担出来ないのは経営者として当然の判断とも言えます。だからこそ、振り分けをして非現実的な売掛を切り捨てていく必要があるのです。
結論的に言うと、債権管理と回収のためのコストは、合理的な判断によって支出しなければなりません。弁護士が売掛債権の管理と回収に関与する場合の弁護士報酬についても同様に合理的でなければなりません。私は、売掛債権の存在と内容に争いのない事案については、通常の金銭請求とは別枠の報酬システムで算定することが合理的だと考えています。つまり、弁護士側にとって定型的な事務処理によって通知書送付と提訴が可能な売掛債権回収については、事務処理手数料の程度で着手し(例えば、15件の債務者への合計300万円の売掛金請求の訴訟について、着手金10万円前後、成功報酬48万円)、現実に回収した利益からの成功報酬で調整するという委任契約を結ぶことによって経営者側のコスト計算に対応した依頼を受けています。
『ワンポイント・アドバイス』
→“合理的なコスト計算を踏まえた債権管理と債権回収をしましょう”
群馬県、高崎を拠点に活動する弁護士法人井坂法律事務所は、経営者・事業者の皆さんの法律の『ホームドクター』として適切なアドバイスを行っています。