投資信託被害事件への取組

2009年7月13日

 最近、ある相談がきっかけで投資信託の投資に関する問題に取り組むようになりました。私は、修習生の時代に所属弁護士会が主催する研修会にたまたま参加して先物取引被害事件に興味を持っていたところ、弁護士になってすぐ先物取引の被害者の相談を受けて受任し、損害賠償訴訟を提起し、苦労して何とか勝訴的和解をしました。その後も先物取引業者相手に交渉して和解に持ち込む案件をいくつか手がけましたが、その種の事件から遠ざかって久しい状況だったので、投資信託の相談を受けて以前の闘争心に火が付いた感じでした。
 それは間もなく80歳になろうとする女性の投資に関する相談で、投資者の長男の嫁が夫ともに販売会社の銀行とのやり取りをしたが、納得がいかず最後の頼みの綱で弁護士に相談したというのです。聞いてみると、夫が亡くなってまもなく遺産の定期預金を積んであった銀行の2人組が家を訪問して来て、定期を崩してファンドで運用するよう勧めたそうです。本人は投資信託のことは殆ど分からず、何度も訪問してきて熱心に何度も勧誘するので信用して、持っていた定期預金をほぼ全部投資に回しました。株を買ったこともなく、投資信託を利息の高い貯金のようなものだと思っていたようです。数年間取引が続いて相当大きな損が出た段階で、銀行担当者が主導して解約したのですが、本人は解約したこともよく分かっていない様子です。投資者本人は数年間にわたる取引の資料を全く保管しておらず、その理由は、銀行担当者がその都度「必要ないから」と言って廃棄するよう勧めたというのです。
 その当時、投資信託に関する事案の受任はもちろん、相談すら受けたことも一度もなく、投資信託自体の知識も不十分でした。つまり、元本割れはする、つまり、銀行預金とは違う。しかし、元本を超えて損害は生じない、つまり、先物取引とも違う、という重要な(かつ、非常に大雑把な)ポイントだけは押さえていましたが。 要するに、先物取引ほどリスキーではないが、銀行預金よりはずっとリスキーである、という程度の予備知識しかない状態でした。相談の受け入れ態勢はその程度でしたが、おおよその経過を聞いて、法律家としての直感は働きました。理屈はともあれ、「この取引が適正なはずはない!」と。
 投資信託のような金融商品については、法律上、『適合性の原則』が適用されます。即ち、顧客の投資目的・財産状態・投資経験等に鑑みて不適合な金融商品取引を勧誘してはならない、という原則です。つまり、その顧客に不適合な金融商品の勧誘自体を禁止しているのです。例えば、株すら買ったことがなく投資経験が全くない80歳近い高齢者に、定期に積んでいた夫の遺産全額を資金として投資信託を販売したとすれば、基本的に違法性が認められる可能性が高いのではないか、と思います。
 平成10年の法改正で銀行が投資信託の販売に参入するようになって、私が受けた相談のように自行の定期預金を資金に当て込んで投資信託を購入するよう顧客に勧める例が実際に多くあるのではないかという気がします。もちろん、販売会社側で適合性の原則をしっかり守っていれば問題はないのですが、平均約3%という高額な手数料の収益性の高さから考えて、利潤追求という企業の論理が顧客保護の要請に優先してしまう危険性は残念ながら否定し切れません。
 私は、違法性の高い取引事例については、弁護士が果敢に委任を受けて訴訟も辞さない覚悟で交渉を行い、実際に提訴まで進めることこそが、企業の違法な勧誘を抑止していく一助となると考えています。特に、銀行が参入して約10年という今こそ、特に目を光らせる必要があると思います。
投信販売店のセールスに疑問をお持ちの方は、是非とも投資信託問題に積極的に取組んでいる群馬、高崎の井坂法律事務所に相談してみて下さい。

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